あらすじ

【登場人物紹介】 あたし、ヒナ《ひなぎく》 主人公兼語り手。 半分人間半分吸血鬼。 死んでもある条件で生き返れる、不思議なチート能力持ち。 ずっと可愛いと思われたいママ。 司《つかさ》 ヒナの夫。 ドイツに古くから続く呪術師一族の子孫。 普段はちゃんと社会人。 マッドサイエンティスト気質でたまに妻を雑に扱うが愛はある。 息子と休日に庭でするキャッチボールが楽しみなパパ。 瑠加《ルカ》 ヒナと司の愛息子。 好奇心旺盛で可愛い盛り。小学一年生。 マイブームは寝る前の読み聞かせ。(日本の歴史漫画) 推しは卑弥呼様。 自分と同じくらいの大きさ(体長120センチ)の飼い猫達が実の祖父母であることを知らない。 リラ 斉藤家の巨大飼い猫。女の子。 ルカの良き理解者。 正体は司の母、代々続く医者の家系出身、斉藤りら。呪術で猫に姿を変える。 ヒナからは《お義母さま》司からは《お母さん》ルカからは《リラ》と呼ばれている。 ハーマン 斉藤家の巨大飼い猫。男の子。 ルカの世話をよく焼く。 正体は司の父、呪術師兼医者、ルカ・グラウ・ハーマン・斉藤。呪術で猫に姿を変える。 ヒナからは《お義父さま》司からは《お父さん》孫ルカからは《ハーマン》と呼ばれている。 【ストーリーメモ】 湯船の王冠、虹色の泡 とある日のお風呂での夫婦の会話劇。 愛息子が用意した、とっておきのおもてなしを楽しむ。 下記の話の数年後、夫婦になったヒナ(ひなぎく)と司さんの日常。 https://kakuyomu.jp/works/16818792437942055106 ようこそ、地獄のリゾートバイトへ!  ——波の音が聞こえてくる。  夜の帳《とばり》は、海の底から昇る黄金の輝きに押され、その幕を開ける。  ひと筋の涙が頬を伝って流れ落ちる。  それは朝日の輝きを映し出し、涙の主《あるじ》に新しい命を与えた。  心臓の炉《ろ》が動き出す。  身体《からだ》中を血液の炎が巡《めぐ》り、動き出した——。  ——もう朝? まだ眠たいのにぃ。それに波の音、近くない?  目を開けると、空が地面にあった。  えっと……ね、|ヒ《・》|ナ《・》、変なことは言っていないと思うのよ。  もしかして、|能《・》|力《・》を使い過ぎて、頭がおかしくなっちゃったのかしら?  つまり……どういうことか、説明するわね。  ヒナ、手足を縛られていて、逆さ吊りになっているの!  ——島の高台にある、古びた木造の東屋《あずまや》。  今は使われていないらしくて、蔦《つた》が生い茂っている。  そこの柱に括《くく》り付けられ、朝日の後光を浴《あ》びていたの。  もー! こんな状態で、セロトニンが分泌《ぶんぴつ》されたって、メンタルは安定しないわよ! 「よっ、ほっ。くっ! 何よこれ! ……解《ほど》けない!」  必死になって、あたりを見渡す。  十字架を思わせる東屋の柱。  生い茂った草。  柱から吊るされているのは、片方の足だけ。  両手は後ろで縛られていて、自力で脱出はできそうもない。  破れた青いシャツが揺《ゆ》れる。  帰る時に捨てて荷物を減らそうと、ヨレヨレの物を持ってきていた。  ちなみに下は、毛玉だらけの赤いレギンスだったりする。  ……もしかして、タロットカードの『吊られた男』に準《なぞら》えて殺されている?  ——パンドラの箱が開いた音が、聞こえた気がした。  そう、ここは陸の孤島。  ヒナは大学の夏休みを利用して、とある島のペンションへ、リゾートバイトをしに来ていたの!  ◇ 「ただいまー! 外、めっちゃ暑いー!」  リビングの扉を開けると、ふんわりとした、甘い香りに包《つつ》まれた。 「お帰りなさい。おやつにクッキー焼いたよ」  声の主《ぬし》は、焼きたてのクッキーを一枚、手に持って近づいてきた。  髪型以外はヒナと、おんなじ背格好をした女の子。  濡羽《ぬれば》色をした、ベリーショートの髪はヘアピンまみれ。  腰まである、ヒナの茶髪とは対照的で面白い。  ヒナとお揃いのトレードマークは宝石の瑠璃《るり》みたいな、青いキラキラの瞳。  双子のお姉ちゃん、終夜詩音《よすがやしおん》だった。  詩音ちゃんの手が、ヒナの口元に寄る。  口の中から鼻に抜けた、チョコチップの甘い香りが広がった。 「フゴッ! アチチ……美味《うっま》っ!」  詩音ちゃんは半ば強引に、ヒナの口に焼きたてクッキーを押し込む。 「でしょでしょ。今からお茶の用意するね。ヒナは着替えておいでよ」 「りょ」  口をモゴモゴさせながら、ヒナは短く返事をする。  詩音ちゃんさ、ヒナ、クッキーに口内《こうない》の水分、持って行かれているの。  お口の中、パッサパサなのよ。  おまけに、外の暑さに体の水分を持っていかれて、カラカラ!  とりあえず、急いで自室で着替えて、ダイニングチェアに座った。  ◇ 「そうだ。ヒナ、夏休み暇《ひま》してる?」  詩音ちゃんが紅茶の入ったカップのふちを、指でついっと滑《すべ》らせ、なぞりながら聞いてきた。 「割とヒマかも。バイトしよーかな、と思ってはいるよ」  ヒナは熱々の紅茶の横にある、氷とお塩がひとつまみ入った、キンキンの麦茶をあおる。 「それなら、頼まれてくれない?」 「何を?」 「離島のペンションでリゾートバイト。ガッツリ稼《かせ》げるよ」  詩音ちゃんが微笑む。  エアコンの稼働音が、嵐の前の静けさを強調するように、リビングに響いた。  ◇  ……という訳で、はるばるやって来たのは、良いのだけれどね。  どうして、こんな事になっちゃったのかしら?  これじゃあ、ガッツリ稼げるどころか、命を搾取《さくしゅ》されているだけじゃないの!  あーあ、嫌《いや》だ嫌《や》だ!  暫《しばら》く、逆さ吊りのまま、独《ひと》りでむくれていた。  時折《ときお》り、潮風が頬を撫《な》ででいく。  少しだけ、ホームシックになった。  ◇  ——遠くから人の声が聞こえてくる。しかも複数人《ふくすうにん》。 「こんな朝早く、いったい誰なのかしら?」  目を凝《こ》らそうとするが、逆さまでいる影響なのか、ボヤけていて良くは見えなかった。  ◇ 「こ、これは——!」「なんて酷《ひど》いことを!」「ヒナちゃん!」  少し離れた、安全圏から人々が口々に喋《しゃべ》る。  ——この声は、バイト先のペンションオーナーとその奥さん、それからバイトの斉藤《さいとう》さんかしらね?  あまりに滑稽《こっけい》なシーンで、笑いが込み上げてくる。  知らず知らずのうちに、体が小刻みに震えていた。  喉の奥が渇《かわ》いて引くつく。  あれ?ヒナ、こんなキャラだったっけ?  何処《どこ》か、暗い奈落の底に落ちて行きそうな感覚がした——。  ◇  固く縛《しば》られたロープで、擦《す》れてしまった手首と片足をさする。  もー、痣《あざ》になっちゃってる。 「怪我《けが》はないか、ヒナちゃん」  解《ほど》けたロープを抱えて、心配しているのは、ヒナと同じバイトの大学生、斉藤さんだ。  バイト先のペンションオーナー夫妻は、薄情にもすでにこの場を去ってしまっていた。 「んーと、無さそうです」  軽く全身をチェックしてみる。  ……うん。  痣をのぞけば、目立つような大きな怪我は無さそうね。セーフ、セーフ! 「ありがとうございます、斉藤さん」  ふかぶかと、丁寧《ていねい》におじぎをした。  目線が下を向いて、気がつく。  足元には白詰草《シロツメクサ》とクローバーの絨毯《じゅうたん》が広がっていたことを。  ——子どもの頃、よく詩音《しおん》ちゃんと花かんむりを作って遊んだっけ。懐かしいな。  斉藤さんの背後には輝く朝日。  ビカビカの金髪が風になびく。 「しかし、驚いたよ。まるでサスペンスドラマのワンシーンに立ち会ったみたいだ」  羽織っているアロハシャツの襟《えり》を正しながら、斉藤さんがヒナを見つめる。  短パンサンダル姿で、足下《あしもと》は少し泥で汚れていた。  ……もしかして、ヒナを心配して——慌てて駆けつけてくれたの?  え、ちょっ、メロいかも! 「君の姉、詩音ちゃんが言っていたことは、本当だったんだね」  その視線と声は温かく、包み込むように優しかった。  ……って、なんで詩音ちゃんの名前が出てくるの!? 「彼女とはちょっとした知り合いでね。この島でのリゾートバイトを紹介したけれど、断られたんだ」  なるほど。  それでヒナにお鉢が回ってきたのね。 「——死ぬたびに『鏡のような水面』に触れることで生き返る。まるで、なろう系小説のチート能力だな」  斉藤さんは、フッ、と軽く笑って言う。  そして何かを考えるように、顎に手を当てる。  ヒナには聞こえないように気を使ったのか、声のトーンを下げて呟《つぶや》いた。 「……君ならあの夫婦にも……いや、何でもない」  ——なに、その伏線。やめてよ!  それからしばらくの間——ふたりでのんびりと朝日を浴びて過ごした。  ◇ 「さあ、ペンションまで帰ろうか」  そう言って、斉藤さんはヒナに密着する。  体を抱きかかえ、お姫様抱っこした。 「ちょっと、下ろしてください! ヒ……わたし、自力で歩けますから!」  顔がゆでダコみたいに、真っ赤になる感覚がする。  きっと耳まで赤く、熱くなっていると思うの。  これは恥ずかしいわ! 「や、そんな痣《あざ》がある足じゃ、無理でしょう。長い眠りから覚めたばかりの、お姫様は黙っていなさいな」  そう言って斉藤さんは、爽やかな朝の風と共に、そのままヒナを連れ去ってしまった。  ◇  灯りの消えた廊下を進む。  陸の孤島にある、とあるペンション。  夜の帳《とばり》が降りて、辺りは闇が支配していた。  タロットカード『吊られた男』に準《なぞら》えられて、殺されかけた……って言うか殺されたのよね。ヒナってば。  そんな事件から数日後——。  すっかり日常に戻って、ヒナと斉藤さんは、泊まり込みのリゾートバイトに精を出していたの。 「のど渇いたー。お水、お水っと」  ヒナは、足を踏み外さないように、慎重に階段を降りる。  リビングに差し掛かると、ボソボソと何か、話し声が聞こえてきた。 「……」  オーナー夫婦かしら?  こんな夜中にいったい何を……。  壁掛け時計を見ると、時刻は丑三《うしみ》つ時。  午前二時を過ぎていた。 「タロットカード……は失敗し……儀式……」「黒魔術《こくまじゅつ》……召喚……こそ、失敗は……れないわ」  あいにくと距離があって、夫婦の会話は聞き取れない。  かろうじて、聞き取れるのは『タロットカード』『失敗』『黒魔術』『召喚』……。  何とも物騒な単語のオンパレード。  思わず鳥肌が立ってしまう。  そうね。ヒナ、生きて此処《ここ》にいるもの。  もし、オーナー夫婦が、先日のヒナ殺人事件の犯人だとしたら、大失敗も良いところよ。  ——いったい事件後は、どんな心境でヒナと接していたのかしら。  サイコパスでもないと、病んじゃいそう。  さて、どうしましょう。  とりあえず、廊下の物影にでも、隠れて様子を——。 「——ヒナちゃん?」  いつの間にか、眼前にあったのは、オーナーの姿だった。  手には暗闇のはずなのに、ギラギラと輝きを放つ包丁を携えていた——。  ◇ 「——っ! 痛い!」  オーナーは、乱暴にヒナの長い髪を掴む。  耳をつんざく、悲鳴のような、叫びのような、夫婦の会話を聞かされた。 「今度は失敗しないはずだ! この娘の肉体と血を依代《よりしろ》に使う!」 「ヒナちゃん! 亡くなった、私達の娘を蘇らせる、生け贄になって頂戴《ちょうだい》!」  そう言ったオーナーの奥さんとは、視線が合わなかった。  ——ダン!  激しい音を立てて、食卓の机に頭を叩きつけられる。  頭上にはギロチンのように鈍く輝く、包丁の刃が見えた。  その瞬間、おだやかな時間を過ごすはずの、食卓は断頭台になった——。  頭だけが、跳《は》ねる。  視界が、天井近くまで高くなる。  景色が、スローモーションのように巡る。  赤い血しぶきと共に、床に落ちた。  ——死んだ! 首チョンパされた!——  視界の端っこで司令塔を失った、首から下が見えた。  力無く食卓に広がって、崩れ落ちていく。  ぱたり、と倒れたその手が、食卓に飾られた一輪挿しを倒す。  花瓶の中の水が音もなく、静かに広がっていく。  表面張力で鏡のように丸くなった水に、肉体が触れた。 「ひなぎく!」  呼びかけと共に、リビングの扉が勢いよく開いた。  それって——ヒナの本名!  ——斉藤さん!——  その手には、何故か銀色のダーツが握られている。  壁掛け時計の隣のダーツボードから、いつの間かダーツの矢が消えていたのに、気がついたのはこの時だった。  斉藤さんはためらう事なく、オーナーに向けて銀色のダーツを放った。  それは狙い通り、正確に弧を描き、オーナーの額に突き刺さる。  その光景を最期に、ヒナの意識は奈落のように暗くて深い、闇の底に落ちていった——。  ◇  ——風が草木をざわめかせ、辺りを優しく揺らす。  それはまるで、ゆりかごの中で、眠りについているような心地よさだった。  辺り一面の白詰草《シロツメクサ》が、鼻腔《びこう》をくすぐる。  僅かに爽やかで、甘い香りがした。  まぶたの裏に、赤い血潮が流れている。  ゆっくりと目を開けると、斉藤さんの腕の中にいた。  彼の心臓の鼓動が、規則正しく、波打つように動く——。 「|ひ《・》|な《・》|ぎ《・》|く《・》、起きたか」  呼び方……!  何だか照れ臭い。  ここは……丘の上にある、白詰草の花畑?  耳をすませると、波の音が聞こえた。  遠くには、朽《く》ちかけた東屋《あずまや》らしき建物が見える。  斉藤さんが、ヒナの頬に手を当てた。  朝露に濡れた、暖かい手に顔全体が包まれる。 (……はい)  返事をしようとしたが、声が出ない。  酸欠の金魚が水槽の上で、一生懸命に呼吸をするように、口をパクパクさせた。 「まあ、声は出せないだろうな。そのままで良いよ」  そう言って、斉藤さんはヒナの手を取る。  ヒナの手は、自身の首筋をなぞるように、斉藤さんに操られた。 (——! これって……) 「離れた首と胴体は、ホッチキスでくっ付けた。一応、煮沸消毒はしたけれど……如何《いかが》なもんなんだろうな」  呆れたように嗤《わら》う。  ——まあ、これじゃあ一年中、ハロウィンコスプレしているみたいよね。  さすがのヒナも、離れたパーツをくっつけるのは時間が掛かりそうだし。  ……ま、いっか。  ◇ 「さて、帰りの船が出るまで、少し時間がある。それまでどうしようか?」  斉藤さんのわきには、スーツケースが2つ並んで置いてあった。  あ、ヒナの荷物も持ってきてくれたのね。  (——そういえば、オーナー夫妻は?  お給料とか、今回の怪我に対して、労災は降りるのかしら?)  斉藤さんに、何かを訴える視線を送る。  そうすると、まるでヒナの思いが届いたかの様に、会話のキャッチボールができた。 「オーナー夫妻は生きているよ。安心しな。奴ら、これまでにもアルバイトでやってきた女の子達を生け贄にして、死者蘇生ごっこをやっていたらしい。地下室から白骨死体が山程出てきたよ」 (マジで? ヒナ達、ひと月近くも白骨死体と同居生活していたの!?)  さすがのヒナも動揺して、額に汗が滲む。 「警察に連絡して、奴らは大黒柱にくくり付けてきた。後はプロにお任せだ」  そう言い終わると、斉藤さんはウインクした。  ビカビカの金髪がわずかに揺れる。  ——斉藤さん、あなた普通の大学生じゃないでしょ。詩音ちゃんと何処《どこ》で知り合ったのかしら? 「それとも、給料か? とりあえず期日には振り込まれるとは思うけどな。駄目なら、出るとこ出ようや」  あっけらかん、とした笑顔で返された。  きゃー! 笑顔が眩しい!  ヒナはしばらくその笑顔にあてられて、クラクラした。  貧血もあると思うけどね。  ◇ 「……そうだな。他に人もいないし、いい機会だ。ちょっと待っておくれよ」  斉藤さんは、手が届く場所に生えている、白詰草をいくつか手に取る。  しばらく手元を動かすと、掌《てのひら》の中で白詰草の指輪が生まれた。  それをヒナの指にはめる。  それから、温かく、優しい微笑みと共に言葉を紡いだ。 「——初めて出会ったときから、ずっと好きでした。俺と付き合ってください」  そう言って、指輪に重ねて口づけをした——。 おしまい 【AI補助利用について】 壁打ち、設定のブラッシュアップ、推敲、誤字脱字のチェックにGeminiとチャットGPTの無料版を使用しています。 今回のキャッチコピーはわたし(作者)が考えました。

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カクヨム2026/01/27
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