あらすじ
「チェスしか能がない地味な令嬢」——王太子アルベルトは、夜会の場で私を切り捨てた。散らばるチェスの駒。嘲笑う貴族たち。蜂蜜色の髪の令嬢が、勝ち誇ったように微笑む。けれど私、リディア・クレセントは泣き縋らない。だって——ようやく自由になれたのだから。私には秘密がある。大陸中の王侯貴族が対局を熱望し、その指導を最高の栄誉とする伝説の棋士『白銀の棋士』。それが私のもうひとつの顔。三年間文通を続けた顔も知らぬ対局相手は、私のチェスを誰よりも理解してくれる人。「貴方のクイーンの動きには哲学がある」——そう綴ってくれた彼の正体は、隣国の国王陛下だった。婚約破棄の裏で暗躍する陰謀。私の名声を奪おうとする者たち。そして迫る、両国の威信をかけたチェス対決。殿下、あなたは知らない。「退屈」と切り捨てた女が、どれほどの駒を動かせるのかを。本当のゲームは、これから始まる。さあ——チェックメイト、貴方の負けです。