あらすじ

「完璧な一文が書けないなら、死んだほうがマシだ」 「小説の神様」志賀直哉を崇拝し、かつてはその再来とまで称された青年・志賀篤志。  しかし、極限まで無駄を削ぎ落とす志賀の文体を追い求めるあまり、彼は重度のスランプ(執筆拒否)に陥っていた。一文字書くたびに自分の中の偽善に吐き気がし、原稿用紙の白さに喉元を突きつけられる日々。  そんな彼の前に現れたのは、文学とは無縁の奔放な女子大生・「イリ」だった。  彼女は篤志が聖域と仰ぐ古本屋へやってくるなり、稀少な百科事典を「傾いた棚の重石にしたい」と言い放つ。 最悪の出会い。けれど、不治の病を抱え「生」の終わりを予感しているイリは、死を恐れる代わりに、篤志に一冊のキャンパスノートを差し出した。 「神様。日記なら、完璧じゃなくていいでしょ?」  始まったのは、命を削るような交換日記。  肉まんの皮が剥ける痛み、店主の豪快ないびき、バッティングセンターでの空振り。  イリが投げつける「卑俗で愛おしい日常」という弾丸に対し、篤志はこれまで軽蔑していたはずの「格好のつかない言葉」で必死に打ち返し始める。  物語の舞台は、志賀直哉ゆかりの地・城崎温泉へ。  冷徹な「写実」の限界を知った篤志が、イリという名の「未完の傑作」を守るために下した、ある決断とは──  これは、神様の椅子を降りた一人の小説家が、愛する人のために「最高に贅沢な嘘」と「光り輝く一行」を書き上げるまでの、再生の物語。

連載情報

ウェブ小説

配信言語
カクヨム
カクヨム2026/01/25
  • 現在の作品小説の神様、ただいま執筆拒否中