あらすじ
結婚八年目。二児の母。三十五歳。
私、山田佐織の左手薬指から、結婚指輪が外れたのは――浮腫のせいだった。
夫は誠実で、家族思い。悪い人じゃない。
ただ忙しいだけ。
でも私は、もう何年も夫に「女」として見られていない。
「ママ」と呼ばれ、
「おい」と呼ばれ、
「山田さん」と呼ばれる。
私の名前は、「佐織」なのに。
指輪を外したその日、職場の同僚・田所さんが言った。
「佐織さんって、笑うと目が細くなるよね。可愛いよ」
久しぶりに、名前で呼ばれた。
久しぶりに、女として見られた。
心臓が、跳ねた。
それから私は、狂い始めた。
夫がくれた新しい指輪を、わざと外して出勤する。
自分で買った薔薇色のルージュを、鏡の前でそっと塗る。
田所さんとの距離が、少しずつ近くなっていく。
触れそうで、触れない指先。
車内に漂う、彼の香り。
夜中に届く、たった三文字のメッセージ。
私は、一線を越えようとしている。
夫の優しさを知りながら。
子供の寝顔を思い出しながら。
罪悪感に苛まれながら。
それでも――
「女でいたかった」
これは、ある既婚女性の、背徳の三ヶ月の記録。
不倫の物語ではない。
失われた自分を取り戻す、再生の物語。
あなたは、夫以外の男に抱かれたいと思ったことがありますか?
私は、ある。