あらすじ
「無能」——それが、薬師令嬢リーゼルに貼られた烙印だった。
名門貴族の家に生まれながら、派手な魔法は使えない。できるのは地味な薬の調合だけ。婚約者にも家族にも見限られ、最後に告げられたのは「辺境の獣人領へ行け」という事実上の追放だった。
辺きょうの森に広がるのは、人間が恐れる獣人たちの領地。だがそこでリーゼルを待っていたのは、牙でも爪でもなく——彼女の薬を必要とする人々だった。
「また来たのか」「……薬が、よく効くので」
無口で不器用な獣人領主グレンは、毎日のようにリーゼルのもとへ薬を貰いに来る。ただの風邪薬、ただの傷薬。理由はいつも取ってつけたようなもので、本当の目的は明らかに別にある。
人間の世界で「無能」と呼ばれた少女の手は、獣人たちにとって、かけがえのない宝だった。
捨てられた場所で見つけた居場所。不器用な領主の、まっすぐすぎる愛情。
——これは、「無能」の烙印を押された薬師令嬢が、辺境で本当の自分と本当の愛を見つける物語。