あらすじ
遠藤二三夫(えんどうふみお)は、人生のあらゆるタイミングを間違えてきた「書き損じ」の男だ。小学校の運動会ではスタートと同時に靴紐が解け、調理実習では触れた瞬間に計量カップが割れる。世界という精密な機械の中で、彼だけが規格外のネジとして放り出されていた。そんな二三夫の最期もやはり「書き損じ」だった。交差点で子猫を助けようとしてトラックに撥ねられた彼が、死の間際に抱きしめていたのは――安物の「猫のぬいぐるみ」だったのだ。
無様な死を遂げた二三夫が、神様の手違いで送り込まれたのは、人情と情緒を重んじる異世界「ニッポンポン」。そこで彼は、二人の強烈な職人に弟子入りすることになる。竹篦(たけべら)一本で頑固なシワを伸ばし、魂を叩き直すクリーニング職人の鹿野鉄造。そして、琥珀色の飴に世界の情緒を封じ込める、永遠の二十八歳の菓子職人・喜古師匠。
修行の日々は、泥にまみれ、罵声を浴びる過酷なものだった。しかし、同じく孤独な影を背負ったライバルの小武(コタケ)と共に過ごす時間は、二三夫の凍りついた心を少しずつ溶かしていく。だが、平和なニッポンポンに、かつて鹿野の弟子であり、完璧を求めすぎて心を石に変えた男・零(ゼロ)が襲いかかる。零は街から色彩と情緒を奪い、世界を汚れなき「白」で塗り潰そうとしていた。
二三夫たちは、失われた「喜古師匠の声」と世界の色彩を取り戻すため、万国を巡る情緒巡礼の旅へ出る。アメリカ、中国、ロシア……各国の神々と出会い、彼らが抱える「失敗」や「後悔」に触れる中で、二三夫は確信する。完璧な正解などいらない。書き損じたなら、何度でもアイロンを引き直し、描き直せばいいのだと。
これは、居場所のなかった少年が、一本の竹篦と一粒のハッカ飴を武器に、不器用な相棒と「二人分の影」を重ね、明日を塗り直していく再生の物語。