あらすじ

『消された境界線 ―八尾・コンクリート詰めの18年―』住民票削除

職権消除(しょっけんしょうじょ)

窓口のデスクに積み上がる 
「居住実態不明」という名の紙の束
そこには一人の少女が 
おかっぱ頭で笑っていたはずの体温(ぬくもり)はない

「適正な管理のため」
叩かれた朱肉の赤は 少女の血の色ではなく
事務的な完了を告げる 乾いた印影

ガシャン、と
重いレバーが下ろされるたび
彼女の「学校」が消える
彼女の「診察券」が消える
彼女を呼び止めるはずの 社会の「声」が消える

書類の上で 彼女は死んだ
肉体がまだ 狭い長屋で呼吸をしているうちに
役所のシュレッダーが 彼女の明日を裁断し
ゴミ箱へと 未来を棄てていく

「職権」という名の透明な刃
それは 悪意のない手によって振るわれ
「消除」という名の消しゴムが
彼女がこの世にいた証拠を 白く塗りつぶした

外では 夕暮れのチャイムが鳴り
家路を急ぐ 背嚢(ランドセル)の列
その音さえ届かない 床下(そこ)では
冷たいコンクリートが ゆっくりと固まっていく

社会が彼女を「忘れる」と決めた日
彼女は 誰にも見つからない 
永遠の「不在」へと 幽閉された

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アルファポリス
アルファポリス2026/02/15
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