あらすじ
感情が希薄な男は、ある雨の夜、路地裏にひっそりと灯る奇妙な店を見つける。
看板には「本日、勇気あります」と書かれていた。
店には、小瓶に詰められた“感情”が並んでいる。
怒り、恋、安心、覚悟、罪悪感――。
半信半疑のまま「怒り」を借りた瞬間、彼の世界は一変する。
音は鋭くなり、色は濃くなり、他人の無遠慮さに心がざわつく。
初めて、自分が世界に反応していることを実感する。
だが、借りた感情は必ず返却しなければならない。
返したあとの胸には、以前よりも深い空白が残る。
店には他にも常連客がいた。
勇気を借り続ける少女。
怒りを過剰に求める中年男。
そして、何も借りずに通う一人の女性。
やがて男は知る。
自分はかつて、この店に“すべての感情”を預けた人間だということを。
耐えきれない出来事から逃れるために。
感情を持たなければ壊れない。
だが、感情を持たなければ生きてもいない。
借り物の感情に依存する日々の中で、
少女は倒れ、怒りの男は暴走し、
男自身もまた選択を迫られる。
感情を取り戻すのか。
空のまま生きるのか。
それとも――誰かのために感情を“貸す側”になるのか。
痛みを抱えることは、弱さなのか。
それとも、生きるための条件なのか。
これは、感情を取り戻す物語ではなく、
感情を引き受ける物語。