あらすじ
『白き誓いの領地運営
〜玉の輿から始まる十年の奇跡〜』
白い誓いから
すべては始まった
愛を求めぬ婚姻
子を望まぬ契約
ただ、家と領地を守るための
冷たい合意
豪奢な馬車の窓に映る
没落貴族の娘の顔は
涙ではなく
覚悟を宿していた
玉の輿と呼ばれようと
蔑まれようと
彼女は知っていた
これは終わりではない
始まりだと
北風が吹く
凍てつく大地
閉ざされた城
戦傷を抱えた領主は
心を鎧で覆い
感情よりも帳簿を信じていた
彼女は笑わない
媚びない
ただ、土に触れた
冷害に強い種を選び
古い慣習に問いを投げ
泥にまみれて
領民の名を覚える
「都の令嬢に何ができる」
その視線を
一つずつ、実りに変えていく
白い結婚は続く
触れぬまま
寄り添わぬまま
それでも
夜の執務室
灯りの下で
地図を広げる二人の距離は
いつしか縮まっていた
「この土地は、まだ生きている」
「君の目には、そう見えるのか」
月明かりが
契約書よりも確かな
信頼を照らす
十年は
激情ではなく
静かな積み重ねだった
豊穣の年
領民の笑顔
市場の活気
子どもたちの声
奇跡とは
突然の祝福ではなく
忍耐の果てに芽吹くもの
やがて
白い契約書が暖炉で燃える夜
炎の揺らぎの中
彼は初めて
鎧を脱ぐ
「君を縛りたくなかった」
「私は、縛られていません」
その言葉のあとに訪れる
沈黙の深さ
触れ合う手は
情熱よりも重い
十年目の春
風が柔らかくなるころ
もう一つの芽吹きが訪れる
諦めていた命
守るべき未来
祝福の鐘が鳴る
だが彼女は知っている
幸福は
贅沢の上に築くものではない
誰かの暮らしを
少しだけ豊かにすること
玉の輿とは
与えられる座ではなく
立ち上がる覚悟のこと
黄金の麦畑の中
成長した子の笑い声
白い誓いから始まった物語は
今や、色を持つ
冷たい契約は
気高い愛へ
そして彼女は微笑む
「私は、世界一幸せな玉の輿に乗ったわ」
それは
贅沢の意味ではなく
選び続けた
十年の誇りのことだった
白き誓いは
もう白ではない
それでもなお
清らかに
強く
二人の庭園は
これからも続いていく
静かな奇跡の色を
まといながら。