あらすじ
聖女フィート・セインテス公爵令嬢。
その祈りは本物だった。
病は癒え、怪我は塞がり、多くの命が救われる。
民衆は感謝し、教会は奇跡を認め、国は安定していた。
――ただ一人を除いて。
王太子ヴェイン・ヴァニティ。
彼は耐えられなかった。
「聖女様のおかげです」
その一言が。
称賛の主語が、自分ではないことが。
未来の王であるはずの自分より、光を浴びる存在がいることが。
嫉妬と虚栄心は、やがて断罪へと変わる。
大聖堂で「偽聖女」と宣言し、フィートを荒野へ追放。
だが、崩れたのは聖女ではなく、王太子の足場だった。
教会に破門され、国王に廃嫡され、爵位を剥奪される。
王宮から追い出され、街を彷徨い、雨に打たれ、残飯を漁り、浮浪者に殴られる。
かつて未来の王と呼ばれた男は、誰にも顧みられない存在へと転がり落ちていく。
それでも彼は叫ぶ。
「世界は、私のためにあるのだ」
荒野に響く狂笑。
だが世界は応えない。
数日後、街外れで見つかったのは、一体の餓死体。
破門された元王太子。
弔われることなく、名も呼ばれぬまま、打ち捨てられる。
聖女は裁かない。
奇跡も止めない。
ただ祈り続ける。
そして世界は、静かに続いていく。
これは、復讐の物語ではない。
嫉妬と虚栄心だけで堕ちていった一人の王太子の末路を描く、冷酷なざまあ譚。