あらすじ

小学三年生の藤崎美咲は、家にあったカラオケセットで友達と歌うことが大好きだった。歌うことは純粋に楽しいことだった。 しかし五年生のある日、クラスの男子たちから「声が変」「アニメ声」と笑われる。その日から、美咲の世界は変わってしまう。音楽の時間も、国語の音読も、すべてが苦痛になった。六年生の合唱コンクールでは、恐怖から口パクで逃げてしまう。 大学を卒業し、社会人になった美咲は、ある日スマホで自分の声を録音してみる。客観的に聞いてみると、自分の声は「普通」だった。自分は声を嫌っていたのではなく、嫌う「べきだ」と思い込まされていただけだと気づく。 声を出すことへの抵抗は薄れていったが、カラオケだけは別だった。二十代半ば、友人とのカラオケでもマイクを握ることができなかった。歌は「聞かせるもの」で、また笑われるかもしれないという恐怖が消えなかった。 三十代後半。親友の結衣に誘われたカラオケで、美咲はついに決意する。「歌う」と。震える手でマイクを握り、震える声で歌い始める。下手でも、音程が怪しくても、声が出ている。歌っている。 その夜、一人で涙を流した。長年自分を縛っていた鎖が外れた瞬間だった。それから月に一度、結衣とカラオケに行くようになる。今でも最初の一曲は緊張するが、マイクを握り、歌う。 カラオケをきっかけに、美咲は他の「できない」と決めつけていたことにも挑戦し始める。全てが上手くいくわけではない。でも、挑戦しないよりずっといい。 完璧じゃなくていい。震えてもいい。 ただ、歌うことができればいい。 そして今日も、美咲は歌う。

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カクヨム
カクヨム2026/02/14
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