あらすじ
あらすじ
届いたのは、切り落とされた男の耳だった。
築四十年を超えるアパート「楓荘」の六畳一間。身長百六十五センチの小柄な体を丸め、熊川翔也は安物の焼酎を湯呑みですすっていた。四十歳、独身。リアルな女には相手にされず、職場の人間関係も希薄な彼にとって、酒とネットだけが己の価値を確認できる唯一の居場所だった。唯一の慰めは、正体不明の女性「ケイ」との甘いメールのやり取りだ。
画面の向こうで微笑む「ケイ・サンドラ」は、そんな彼を一分一秒たりとも否定しない。
『Shouya、世界はあなたを正当に評価していないわ。でも私は知っているの。あなたがどれほど繊細で、特別な男であるかを』
その甘い言葉が、翔也の虚栄心をじりじりと焦がす。だが、ケイの愛は次第に歪んだ形を見せ始める。
標的となったのは、八尾丸町福祉課の生活保護担当者・水原。元刑事で身長百七十五センチの大柄なその男は、常に高い視線から翔也を見下し、その切実な訴えを冷酷に聞き流し続けてきた。
水原が帰った後に、翔也の元に届けられたのは、高級ワインと、保冷剤とともに詰められた水原の「一部」だった。恐怖と昏い悦びに震える翔也だったが、それすらもケイの描いた筋書きに過ぎなかった。
届けられたワインに仕込まれた睡眠薬により、翔也は意識を失う。彼を「モノ」として処理しに来たのは、洗練された身のこなしの執事。翔也が住んでいた一〇二号室は、灯油とガス、そして一本の煙草によって、家を焼き払っていった。
死体袋に入れられ、車のトランクに放り込まれた翔也。薄れゆく意識の中で彼が聞いたのは、ケイの冷徹な声だった。
「ええ。次のターゲットも、すぐ近くにいるみたいだし。……楽しみね」
救いも、愛も、そこにはなかった。 入鹿池の深い闇へと運ばれていく。