あらすじ
商店街の最果て、錆びついたサインポールが回る『乾洗髪店(いぬいせんぱつてん)』。そこは、髪を切る場所ではない。現代社会のストレスに蝕まれ、頭から「角」が生えてしまった鬼たちが、その汚れを落としにやってくる伝説のクリーニング店だった。
店主の蓮(れん)は、無愛想だが腕は一流の研磨師。彼は角に触れるだけで、その者が抱える「言葉にできない痛み」を感じ取ってしまう。そして、隣で明るく茶を淹れるアルバイトの狛(こま)もまた、かつて自ら角を折った悲しい過去を持つ鬼だった。
ある雨の日。ニット帽を深く被った女子高生・美咲が店を訪れる。彼女の頭に生えていたのは、ヒビだらけで今にも砕けそうな「透明な角」だった。「良い子」を演じ続け、自分の声を押し殺してきた彼女の限界は、もうすぐそこまで来ていた。
「……汚れすぎだ。これじゃあ、自分まで見えなくなるぞ」
蓮のヤスリが角を削るたび、溢れ出すのは彼女の涙と、封じ込めた本音。 これは、居場所を失った「鬼」たちが、自分自身の輝きを取り戻していく、再生と救済の物語。