あらすじ
鬼発生抑制法が施行されて五年。怒りの感情が限界を超えると人は「鬼」と呼ばれ、感情管理局によって「回収」される社会。新人回収員・水野遥は、母の医療費のためにこの仕事を続けていたが、いつしか「鬼を回収する」という行為に疑問を抱き始めていた。
ある日、彼女はベテランの佐々木とともに、小学校教師・柴田健を回収する任務に就く。柴田は暴力も抵抗もせず、ただ疲弊した中年教師だった。彼は「もう無理だ」と呟いただけで虹彩が赤く変わり通報されたという。水野はその穏やかな姿に「鬼」と呼ぶことへの違和感を強めていく。施設へ向かう車中、柴田は教育現場で積み重なった理不尽や孤独を語る。怒ることを許されない日々の果てに、彼の目は赤く染まったのだと。水野はその姿に、自らの母や、怒りを抑えて生きる社会の姿を重ねる。
施設が近づく頃、水野はついに職務を拒否し、「この人を回収できません」と訴える。局の上司と口論の末、彼女は職を失う覚悟で柴田を学校へ戻す。校長や同僚の教師たちが柴田を迎える中、水野は「正しさ」を信じて行動した自分の選択を受け入れる。
解雇された後、母に報告すると、母は「正しいことをした」と彼女を抱きしめる。夜の街に出た水野は、疲れた人々の目にわずかな赤い光を見て悟る。鬼とは、怒りを抱くことを許されなかった人間の姿なのだと。「鬼は、私たちの中にいる。」そう胸に刻み、水野は再び歩き出す。