あらすじ
「水槽」という名の青春は、血の色に染まる――。
全日本を目指すエリートスイマー、佐藤雫。彼女の日常は、プールサイドで起きた些細な諍いから一変する。親友・陽菜の目の前で、足を負傷したチームメイト・和美がプールに転落。雫は制服のまま、迷わず救助に飛び込むが、水を吸った衣服は鉛のように重く、パニックに陥った和美は彼女の体に死の重みとなってのしかかる。
「陽菜!手伝って!」
絶望的な叫びは、恐怖に凍り付いた親友には届かない。それどころか、後から駆けつけたコーチに詰問された陽菜の口からこぼれたのは、雫の心を永遠に凍てつかせる、身勝手で冷酷な言い訳だった。
「だって…私も同じ目に遭うかもしれないから…怖かったの…」
結果は、最悪。コーチによって引き上げられた雫と和美は、一命を取り留めたものの、その代償はあまりにも大きかった。医師から告げられたのは、二度と競技者として泳ぐことのできないという非情な宣告。それは、彼女たちの「ヒレ」が、もはや水を掻くことはないと突きつけられた瞬間だった。
友情は裏切りによって腐臭を放ち、夢は絶望という名の水底に沈む。
かつて輝いていたはずのヒレは無惨にもぎ取られ、少女たちは「泳げない」という名のガラスの水槽に閉じ込められる。
これは、美しくも残酷な、少女たちの魂の叫び。
あなたの心臓を、冷たい水で満たす物語。
「淋しい熱帯魚」――そのヒレは、もう二度と、光の中を泳がない。