あらすじ
文化祭まで、あと三日。
大学の料理サークル〈自炊研究会〉は、過去最大の挑戦に踏み出していた。
鶏白湯を乳化させ、海老の旨味を重ね、野菜の甘みで整える、狂気的な手間を掛けた「神がかり的に旨いカレー V」――通称「神V」。
予算も時間も、ほとんどすべてを注ぎ込んだ勝負作だ。
もし当たれば、何かが変わる。
評価され、知られ、次の場所へ進むことになるかもしれない。
けれど、本当に怖いのは失敗ではなかった。
成功した瞬間、今の関係が壊れてしまうかもしれないという予感だった。
攻めたい澪。
届かせたいさつき。
そして、そのあいだで揺れる晃。
同じ鍋を囲みながら、それぞれが違う未来を思い描いている。
これは、夢を追う物語ではない。
変わることを恐れながら、それでも前に出る三人の物語だ。
成功が怖いと思ったことのあるすべての人へ。
――あの夜の鍋が、俺たちの距離を決めた。