あらすじ
昭和十一年二月二十六日。
雪に覆われた帝都で、陸軍の青年将校たちが蹶起した。
政府要人が襲撃され、官庁街が占拠される中、
海軍省に出仕する一人の士官は、
銃声よりも重い「沈黙」と「言葉」の応酬を目撃することになる。
昭和天皇陛下の御叱責、
伏見宮軍令部総長宮殿下の断言、
海軍の徹底抗戦態勢、
そして一時的に反乱将校たちを惑わせた陸軍大臣告示――
事態は、武力ではなく言葉によって揺れ、収束へと向かっていく。
本作は、二・二六事件を
「反乱を起こした側」ではなく、
それを終わらせる立場にあった人々、
すなわち命令を出し、あるいは出さず、
引き金を引かなかった者たちの視点から描く歴史小説である。
英雄も勝者も存在しない。
残ったのは、沈黙の重さと、
一日で分かたれた運命だけだった。