あらすじ
心が折れた。
折れたのに、生活は待ってくれない。
会社で「大丈夫」を繰り返し、終電を逃した夜。
元会社員の白瀬紡(しらせ つむぎ)は、駅にあるはずのない小道を見つけてしまう。
辿り着いたのは、森の奥の小さな店――看板には、こう書かれていた。
【処方箋を作ります】
店主ルカが淹れてくれた温かい飲み物と、たった一行の処方。
それを受け取った瞬間、胸の痛みがほどけていく。
けれど紡は知る。
処方箋は、ただ優しいだけの魔法じゃない。
誰かを治すたびに、紡はその痛みを少しだけ“肩代わり”してしまう。
さらに治療を重ねるほど、森の店との契約――「結び目」が増え、やがて外へ戻れなくなるかもしれない。
それでも紡は、今日も誰かのために処方箋を書く。
甘えん坊の森の妖精モコに温められながら。
過保護気味のルカに止められながら。
これは、疲れた心を治す物語。
そして――治す側の人が、ちゃんと自分の世界へ戻るための物語。
やがて紡は決める。
森の外へ帰り、街の片隅に「もう一つの小さな店」を作ることを。
【処方箋、作ります】
必要な人だけが辿り着ける、その店を。