あらすじ
2067年。人工超知能(ASI)が人類のあらゆる問題を解決した世界。エネルギーも食料も医療も、もう人間が悩む必要はない。——人間が必要とされる理由も、もうほとんどない。
時空の裂け目「門(ゲート)」の向こうに、異世界が見つかった。
生身の人間は門を通れない。代わりに鉄の体——ヒューマノイドを遠隔操作し、異世界で活動する者たちが現れた。「冒険者」と呼ばれている。彼らの冒険はリアルタイムで配信され、全人類がエンタメとして消費する。ASI時代に残された、最後の「人間が主役になれる仕事」。
片桐カイ、22歳。特別な才能はない。強い動機もない。何者にもなれなかった男が、冒険者という最後の居場所にすがりついた。
配属先は灰の原——ゾーンゼロ。最低ランク。視聴者0人。退屈な荒野で岩のサンプルを採り続ける毎日。
だがカイは、ASIのデータベースに載っていないものを見つけてしまう。荒野に残された石積み。岩盤に刻まれた線。誰かがここで暮らしていた痕跡。
灰色の荒野で、小さな民と出会った。
3度故郷を追われた民。マナを持たず、この世界で「生きる価値がない」とされた民。地球から来た鉄の巨人を「鉄の化け物」と呼んで怯える民。
老人が鉄の体を見上げて言った。「お前もマナを持たないのか」
操作席に座ったまま異世界を覗いていた男の足元が、静かに崩れ始める。