あらすじ
とある裁判所。
男は証言台の前に立ち、気だるそうに体を揺らしていた。片足に体重を預け、あくびをひとつし、猿のように頬を掻く。ふと思い出したように肩越しにちらりと後ろを振り返ると、傍聴席では遺影を胸に抱いた遺族たちが手を震わせていた。強張り、悲しみで真っ白に染まった顔と、唇を噛みしめて怒りで真っ赤に染まった顔が並んでいる。
男はその光景を一瞥し、鼻で小さく笑った。
そのときだった。ついに堪えきれなくなった遺族のひとり――父親――が勢いよく立ち上がった。
「お前、お前っ……!」
しかし、怒りが先走りすぎたのか、言葉は喉の奥で絡まり、それ以上は声にならなかった。隣に座る妻が「あなた……!」と声を押し殺し、袖を掴んで引く。父親は歯を食いしばったまま、ゆっくりと腰を下ろした。
大丈夫だ、必ず罰は下る――そう何度も自分に言い聞かせながら、男の背中を睨み続けた。