あらすじ
「本音を言えないまま飲み込む言葉は、いつか自分を壊す毒になる」あの日、車で二十分の距離を移動しただけで、私の世界からは色が消えた。
新しい学校で私を待っていたのは、娯楽のテレビすら映らない家という、受け入れがたい現実。
「昨日、あのテレビ見た?」
その一言に頷いた瞬間、私の人生は「真っ赤な嘘」に塗り固められていった。
周囲に合わせるために自分を殺し、嘘という毒を飲み込み続けた日々。
歪んでいく心はやがて、教室という閉ざされた空間で、決して消えない「大きな過ち」を招いてしまうーー。
絶望の底にいた私を暗闇から救い出してくれたのは、放課後の教室で方程式を教えてくれる、一人の先生だった。
答えが一つに定まる数式だけが、偽りだらけの私を現実につなぎ止めてくれた。
先生への、決して叶うことのない恋。
それは道端に実る野いちごのように、甘酸っぱくて、けれど摘み取ろうとすれば指先に痛みが走る。
あの日、白く曇った助手席の窓に指で書いた、私の本当の願い。
それを見た先生が、私に見せた「背中」とは。
これは、誰にも言えなかった「あの頃の私」へ捧げる、真実の記録。
ついた嘘も、飲み込んだ涙も、すべてはあのいちごのように鮮烈な、私の人生の一部だった。
「一度の過ちで、あなたの価値がすべて決まるわけじゃない」そう願う私がいま、三十六年前の記憶の扉を、静かに開きます。
英吉 栞