あらすじ
VRMMO『エターナル・ワールド』――世界最大級のプレイヤー数を誇るこの仮想現実ゲームで、橘湊は恋人・里香と共に最前線を駆け抜けていた。彼は彼女にプロポーズするため、希少アイテム「永遠の指輪」を密かに収集していたのだ。
しかしある日、里香は湊が残業でログインできない夜、ギルドマスターの恭介に告白され、あっさりと心を奪われる。湊が指輪を捧げる直前、彼女は恥ずかしそうに言った。
「ごめん……恭介さんのほうが、現実でもちゃんとした人なんだ。あなたはいつもゲームばかりで、将来が不安だった」
湊はギルドから追放され、里香と恭介はゲーム内で祝福される。湊の収集した指輪素材はすべて恭介に横取りされ、彼が里香にプロポーズする演出に使われた。
湊は半年間、ゲームから離れた。
そして――現実世界。
湊はある日、部署に配属された新入社員の顔を見て凍りつく。ゲームで自分を裏切った恭介だった。さらに、隣の席の先輩社員・里香が、愛おしそうに恭介の指導をしている。
二人は湊に気づかない。いや、気づいていないふりをしているのか。
湊の胸の内で、冷たい決意が燃え上がる。
「そうか……これがお前らのリアルか」
湊の役職は、IT戦略本部長。ゲーム内では雑魚扱いされた男は、現実ではこの会社のシステム権限すべてを掌握している。
彼はまず、社内の業務用VR会議システムに、『エターナル・ワールド』のログインデータを横流しする裏プログラムを仕込んだ。翌日、恭介と里香のアカウントは、運営から「不正ツール使用」と判定され、永久BANされる。
ゲーム内資産はすべて没収。二年分の課金も、希少装備も、ギルドの地位も――そして、二人の結婚資金として貯めていたレアアイテムの売却益も。
「何かの間違いです! 私たち、不正なんてしていません!」
必死に抗議する二人に、湊は静かに告げる。
「知ってるよ。不正なんてしてない。でも、データを改ざんしたのは俺だ。この会社の全システムに、俺はアクセスできるから」
そして彼は、里香と恭介の人事評価に、これまでの一切合切を書き込む。「不適切な業務態度」「情報管理体制の不備」「虚偽報告」――事実も嘘も混ぜて、退職に追い込むだけの資料を完成させる。
退職勧告の書類を突きつけられた日、二人はようやく気づく。かつてゲームで「雑魚」と切り捨てた男が、自分の人生のすべてを握っていることに。
「お願いです……助けてください……」
土下座する里香に、湊は微笑む。
「『現実』の話をしようか。君は、俺の将来が不安だと言ったね。でも、今ここで不安なのは、どっちだろう?」
ゲームの世界で奪われた指輪は、もういらない。
湊は今夜も、自分の席で静かに『エターナル・ワールド』にログインする。アカウントは新しく作り直した。一から始めるゲームは、案外悪くない。