あらすじ
――ん?
朝、おれは小さくため息をつきながらオフィスへ足を踏み入れた。湿気をたっぷり含んだ空気が肌にまとわりつき、空はどんよりと重い雲に覆われていた。こういう日は気分が沈むものだ。別に何か悪いことが起きる予感がするわけでもないのだが。
と思っていたのに、違和感に足が止まった。
灯りはいつもどおり煌々と点いているのに、しんと静まり返っていたのだ。
誰もいない――ふいに、小学生の頃の記憶が脳裏に浮かんだ。台風で自宅待機になっていたのに、それを知らずに登校してしまい、入口の前で一人立ち尽くした、あの日の感覚だ。
だが今日は台風どころか風もほとんど吹いていなかった。
「なんでだ……」
「おっ」
独り言のつもりで呟いた声に反応があった。思わず肩が跳ね、顔を向けた。すると、デスクの陰から後輩の立木がひょいと顔を出した。
おれは胸を撫で下ろし、頬を緩めて歩み寄った。