あらすじ
――伝えなかった言葉は、伝えられなかった言葉になる。
隣の席の女の子は、いつも本を読んでいた。
話しかけると、目を上げずに小さく笑う。
付箋に何を書いているのか聞くと、「秘密」とだけ返してくる。
特別なことは何もなかった。何もなかったはずだった。
十月のある月曜日、彼女の席は空になった。
「水瀬さんは、家庭の事情で転校しました」
担任のその一言で、隣にいた日々は過去になった。
机の中に残されていたのは、一冊の文庫本。
ページの間に挟まれた付箋には、
彼女が誰にも言えなかった言葉が、静かに眠っていた。