あらすじ
『猫は家に住まない』――この壁には、まだ息が残っている
猫は
家に**住まない**
住まわされもしない
守られようともしない
ただ
置かれている**気配**の上に
静かに腰を下ろすだけだ
この壁は
何度も塗り替えられ
何度も隠された
釘の跡
塞がれた配線孔
意味のない梁
人はそれを
「リフォーム」と呼んだ
猫は
爪を立てずに
そこを通り過ぎた
昼の光が
一度だけ床に落ちる角度
夜に冷えるタイルの順番
音が溜まる天井の端
猫は知っている
この家が
誰を閉じ込め
誰を逃がし
誰の声を
壁の中に沈めてきたかを
人が
「ここは落ち着く」と言うとき
猫は
別の部屋へ移動する
人が
「思い出がある」と言う場所で
猫は
眠らない
ここには
まだ息が残っている
建材の奥
断熱材の隙間
柱と柱のあいだ
言葉にならなかった
生活が
まだ
呼吸している
猫は
それを
追い出さない
ただ
見張る
この家が
次に
誰を
住まい手と呼ぶのか
その瞬間まで