あらすじ
パリ。
地下の練習室で発見された、首を失ったまま椅子に座る死体。
血はほとんどなく、室内は異様なまでに整えられていた。
そして、額に刻まれた朱色の「×」。
それは感情的な痕跡ではない。
校正記号――「削除。修正不可」。
捜査を進める刑事リシャールは、やがて奇妙な共通点に気づく。
被害者はいずれも、
音楽教師、評論家、判事補――“評価する立場”の人間だった。
さらに現場には、総額数千万相当の高級オーディオ機器。
再生されていたのは、6分32秒の完全な無音。
音は存在しない。
だが、そこには明確な「意図」があった。
評価とは何か。
裁くとは何か。
そして、人は誰に「不合格」を突きつけられるのか。
静謐で無機質な描写、徹底した客観視点、
音楽・法・出版という異分野を横断する構造が絡み合い、
物語はやがて、**“評価者を評価する存在”**の輪郭を浮かび上がらせていく。
これは連続殺人の物語ではない。
沈黙による告発であり、冷酷な審査記録である。
読後、あなたは気づく。
「×」は、他人事ではないということに。