あらすじ
東南アジアの水上都市〈ナム・スック〉。
「犯罪ゼロ」「失踪者ゼロ」「病気ゼロ」を誇る、平和な観光地。
そこでは、人は死なない。
正確に言えば――身体が壊れても、意識だけが残り続ける。
逃亡犯の佐伯恒一は、この街に“安堵”を見出す。
捕まらない。裁かれない。死ぬことさえできない。
ここは、自分にとって都合のいい場所のはずだった。
だが、街の住人たちは笑わない。
生活音はなく、同じ動作を延々と繰り返し、
死者は今日も市場で働き続けている。
佐伯は試す。
殺しても、殺しても、彼らは翌日そこに立っている。
やがて彼は、孤児の少女ノイと出会う。
彼女だけが、この街を「優しい場所」だと信じていた。
――もし、この街から出られたら?
――もし、まだ“救い”が残っているとしたら?
脱出の試みは、最も残酷な真実を暴き出す。
死ねないことは、救済ではない。
罪は消えても、意識は消えない。
奪った命は、永遠に内側で囁き続ける。