あらすじ
粘土シティーは、建物も人も粘土でできた街。
この街では、人々の「思い」や「イメージ」によって、家や道の形が自在に変わる。
不安が広がれば壁は高くなり、安心が満ちれば街はやさしく丸みを帯びる。
壊れることは当たり前で、壊れたものは修復屋が直してくれる――それが、この街の日常だった。
修復屋ノコは、壊れたものを「元どおり」にするのではなく、その傷ごと受け止めて整える職人。
ある日、街の中央広場に、修復跡のない不思議な少女リラが現れる。
彼女は壊れることも欠けることもない、街では異質な存在だった。
リラの出現により、人々の不安と疑念が少しずつ街を歪ませていく。
噂は広がり、建物は尖り、街全体が「拒む形」へと変わっていく。
やがて人々の恐怖が限界に達したとき、粘土シティーに初めての雨が降り、街は崩壊の危機に陥る。
混乱の中、リラは街を守るため、自らを支点として建物を支える。
壊れないはずの彼女の身体は、街の想いを受け止めることで少しずつ削れていき、やがて修復できない形で消えていく。
雨が止んだあと、街は救われるが、リラは戻らない。
広場には小さな凹みだけが残り、それは「修復できなかった想い」の証となる。
街は以前ほど自在に形を変えなくなるが、人々は壊れること、失うことを受け入れ、傷を抱えたまま生きる強さを知る。
粘土シティーは今日も歪んでいる。
だがその歪みは、誰かが確かにここにいた記憶として、静かに街を支え続けている。