あらすじ
夕暮れの駅前で落ちていた財布を、迷いなく拾い交番へ向かった記憶から、語り手の内省は始まる。
「信じる」ことを前提に生きてきた自分の手つきが、日本という社会の空気に深く染み込んでいることを、海外の価値観やSNSで目にした異文化の反応を通して、語り手は少しずつ自覚していく。
騙す者と騙される者を善悪で分けない世界、信頼が賭けや戦略として扱われる場所を知るほどに、日本的な安心は「隙」にもなり得ると理解する。
それでもなお、拾った財布を黙って自分のものにする想像だけは、身体が拒む。
世界を知ることと、自分を変えることのあいだで揺れながら、語り手は問いを急がない。
理解しても手放せない癖を抱えたまま、今日もまた交番へ向かって歩く。
この小さな反復の中に、語り手の倫理と葛藤、そして静かな覚悟が滲んでいく。