あらすじ
とある昼下がりの電車内。乗客の数はそこそこ。大半は座席に腰を下ろし、スマートフォンの画面を指でなぞったり、目を閉じたりしている。窓から差し込む柔らかな陽光が床に光の図形を落とし、車体は一定のリズムで揺れていた。レールを刻む規則的な振動音がどこか眠気を誘う。そんないつも通りの穏やかな――
「なあ、馬鹿ばっかりじゃないか? 世の中! 馬鹿ばっかりじゃないかあ!」
突如として、その穏やかな空気を怒声が切り裂いた。
一人の男が立ち上がり、声を張り上げたのだ。車内の時間が一瞬止まった。乗客たちは反射的に肩を強張らせ、男へ視線を向けたが、すぐに足元や窓の外へと逸らした。