あらすじ

天保の大飢饉の傷も癒えぬまま、水野忠邦による改革の嵐が吹き荒れる。贅沢を禁じ、娯楽を締め上げる御触れに、江戸の町から色が消えていく。 神田三河町の路地裏にある小さな髪結床「とく床」。六十二歳の主・徳次郎は、シュッ、シュッとカミソリを研ぎながら、今日も客を待つ。 「心が荒んだ時こそ、身だしなみをな」 改革に不満を漏らす隠居武士、昇段試験を前に焦る若侍、亡き母の跡を継ごうとする娘——。 それぞれが抱える不安や迷いを、徳次郎は髪を整えることで静かにほぐしていく。髪を整えることは、心を整えること。厳しい時代だからこそ、人間の尊厳を守り続ける。 踏んだり蹴ったり。飢饉に改革。それでも江戸の人々は、今日も生きている。 カミソリの音が響く小さな店で、職人の矜持が、今日も誰かの心を照らしている。

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カクヨム2026/02/08
  • 現在の作品神田三河町 とく床ものがたり