あらすじ

※完結の約94000字まで毎日19:00予約投稿済です。 【作品概略】 銀縁眼鏡の奥に、他人には視えない「世界の不具合(ノイズ)」を捉える眼を持つ少年、浬(かいり)。他人のつく嘘や、街に潜む非科学的な怪異が、テレビ画面の砂嵐のようなノイズとして現実を侵食する――。その特異体質ゆえに実母からも「化け物」と拒絶された過去を持つ彼は、以来、目に見える物質と数式、そして冷徹な論理(ロジック)だけを信じて生きてきた。そんな彼を唯一、無遠慮な笑顔で「相棒」と呼び、冷たい人間社会に繋ぎ止めていたのは、直感型で情に厚い幼馴染の蒼介だった。 物語は、正反対な二人の平穏が、ある不可解な「バグ」によって浸食されるところから動き出す。 最初の異変は、最も身近な存在である蒼介を襲った。全身の細胞が急激に入れ替わる奇妙な怪異に取り憑かれ、記憶も性格も完璧で無機質な「別人」へと変貌していく親友。昨日までの笑顔を失った蒼介を前に、浬は絶望の淵で自らの武器である理学を振るう。 「全身の細胞が数年で入れ替わっても、人は同じ自分と言えるか?」――古代のパラドックス『テセウスの船』の論理を、浬は親友を奪還するためのメスに変える。細胞が入れ替わっても、脳に刻まれた「共通の心の傷」という物理的な証拠だけは消えない。自らの知性を極限まで回転させ、浬は世界から蒼介のアイデンティティを鮮やかに「検収」し、彼を取り戻してみせるのだった。 それからも浬の元には、理屈では説明のつかない不条理が次々と舞い込む。言葉の檻に囚われ、未来を予言される恐怖に震える少女を救うため、彼は『ワニのパラドックス』を逆手に取り、最強の矛盾で運命のシステムをフリーズさせる。難解な数式や哲学を、スマホのデータや柱の傷といった「日常のガジェット」に落とし込み、世界の歪みを次々と「観測カルテ」へ収穫していく浬。だが、怪異を解剖し続ける彼の心の奥底には、常に消えない一つの「バグ」が潜んでいた。それは、かつて自らの理屈では救うことができなかった、病死した初恋の少女・零奈の記憶だった。 物語の最終局面、浬は零奈と再会する。それは現実の病室ではなく、かつて二人で遊んだ「テレビゲーム」の中の精神世界だった。 そこは左右の概念がなく、高次元からの干渉が影となって伸びる、不思議で残酷な平面世界(フラットランド)。死生観の壁を越え、現世の住人である浬の前に現れた零奈は、あの日のままの姿で彼を呼ぶ。なぜ彼女は死ななければならなかったのか。なぜ自分だけが生き残ってしまったのか。論理を突き詰めてきた少年は、最愛の死という究極の不条理を前に、最後にして最大の「執刀」を開始する。 それは、神様の書き損じとも言える世界の欠陥(バグ)を、たった一人の少年の愛が正解へと書き換えるための戦いだった。 「たとえこの世界が矛盾だらけだとしても、僕の網膜が君を捉えていることだけは、絶対的な真実だ」 知性と情熱が交差する果てに、浬が辿り着いたのは、冷徹な定義を越えた先にある「愛」という名の絶対的な定理。これは、矛盾だらけの世界を愛せなかった少年が、大切な人の温度を信じ、自らも救われていくまでの魂の観測記録である。

連載情報

ウェブ小説

配信言語
カクヨム
カクヨム2026/02/08
  • 現在の作品【完結済】異界医の理学カルテ ―僕らだけが知る、世界のバグの治し方―