あらすじ
目を覚ますと、月が二つ浮かぶ見知らぬ世界にいた。
名前も、過去も、自分が何者だったかも思い出せない。
あるのは——なぜか豊富な知識と、やけに非力な身体。
そしていつの間にか備わっていた、地味で頼りない不思議な力だけ。
たどり着いたのは、豊かだが魔獣が棲むゆえに誰も手を出さない「恵まれた辺境」。
火を起こすだけで一日が終わり、
石のナイフひとつ作るのに何度も失敗し、
魔獣に出くわせば、逃げることしかできない。
それでも——この土地が好きだと思った。
前世の知識で道具を作り、罠を仕掛け、岩塩を見つけて初めて肉に塩を振った日。
あの感動を、いつか誰かと分かち合いたい。
やがて出会うのは、孤独な獣人の少女。
強くて不器用で、尻尾が正直な彼女が、最初の仲間になった。
戦えない男が、知恵と料理と少しの不思議な力で、
未開の辺境をゆっくりと拓いていく。
一人、また一人と仲間が増え、
やがてそこは——たくさんの「おかえり」が生まれる場所になる。
これは、非力な開拓者と、彼を支える仲間たちの、
のんびりだけど確かな歩みの物語。