あらすじ
誰かを助けることはできるのに、助けてと言えない女がいる。
冤罪で身分を奪われ、国境の自治都市に流れ着いたクレールにあるのは、前世で身につけた傾聴の技術だけだった。
実績もない。信用もない。名前すら、もう正式には存在しない。
それでも彼女は、小さな空き店舗に看板を掲げる。 一杯のお茶と、あなたの話を聞く場所。
訪れるのは、追放された者、居場所を失った者、言葉にできない怒りを抱えた者たち。
そして、名前も過去も明かさないまま毎日通い続ける、一人の寡黙な男。
彼が何を抱えているのか、クレールは問わない。 相手が話すまで待つ。それが彼女のやり方だから。
けれど、人の声ばかり聞いてきた彼女自身の心は、誰が聞くのだろう。