あらすじ

名を呼ばれなかった“何か”と接触した少女・梓は、日常へ戻った――はずだった。 朝の音、登校風景、教室のざわめき。世界は変わらない。 だが、彼女だけが気づいてしまう。 「それ」は、もう遠くにいない。 胸の奥に潜んでいたはずの存在は、触れない距離まで近づき、 いつの間にか“同じ空間にいる前提”で振る舞い始めていた。 呼んでいない。名も与えていない。 それでも、声は知っている口調で語りかけてくる。 境界は、意志で決まる――そう信じていた。 だが揺れ続ける境界は、梓の選択を待つどころか、 「選ばない」という態度そのものを侵食し始める。 予感は現実より先に訪れ、 避けたはずの危険は「避けさせられた」感覚に変わる。 守られているのではない。 都合よく配置されているだけだと、梓は理解し始める。 旧校舎。 かつて境界が最も薄かった場所で、ついに“それ”は彼女の名を呼ぶ。 完全ではない。だが、逃げ道を残さない呼び方で。 名を呼べば、定まる。 呼ばれれば、引き受ける。 では、呼ばないまま揺らし続けた結果は何か。 それは、共存ではない。 理解でも、共有でもない。 弱い意志を足場に、世界へ入り込むための準備だ。 これは、怪異に名前を与える物語ではない。 名前を呼ばせようとする“何か”に、 少しずつ生活を明け渡していく物語。 境界は、もう揺れていない。 静かに、定まり始めている。

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エブリスタ
エブリスタ2026/01/02
  • 現在の作品『名を呼ばせるもの』