あらすじ
七年間ずっと誰にも名前を呼ばれなかった。
宮廷のすべての行事を設計し、成功させ、報告書から自分の名前だけが消される日々を過ごしたカタリナは、卒業式の壇上で婚約破棄と断罪を突きつけられる。
差し出した百ページの引き継ぎ書は受け取りすらされなかった。
父に勘当され、港町にたどり着いた朝、手元に残っていたのは七年分の業務日誌だけだった。
誰にも見せたことのないその帳簿に記された数字と段取りが、小さな秋祭りの裏方仕事をきっかけに町の人々の目に触れていく。
そしてある日、三年前の晩餐会の運営を覚えていたという隣国の外交官が現れ、大陸五カ国が集う国際会議の運営を依頼される。
王都からは執拗な妨害が届く。
物資を止められ、脅迫状が届き、かつて自分を陥れた聖女までもが乗り込んでくる。
それでもカタリナが武器にするのは暴力でも魔法でもなく、七年分の記録と段取りだけだ。
不器用な外交官は怒りを言葉にしない代わりに紅茶を淹れる。
その一杯の温度がいつも正確にちょうどいいことに気づいたとき、カタリナの胸に名前のつかない感情が静かに灯る。
消された名前は取り戻せるのか。
百ページの引き継ぎ書を読んだ人間は本当にいなかったのか。