あらすじ
「……部長」
「ん?」
朝のオフィス。始業してそう経っていない時間帯で、空調の音とキーボードの打鍵音だけが淡々と流れている。書類に目を通していたおれは、その呼びかけに顔を上げた。
デスクの前に立っていたのは部下の国石。両手を前で揃えて垂らし、背筋を伸ばしている。だが表情は妙に硬く、影を落としたように暗かった。
やらかしたな――そう直感したおれは柔らかい表情を作り、「どうした?」と優しい声で訊ねた。
そう、優しく穏やかに、だ。何を言われても怒らない。心の中でそう念じる。昨今はコンプライアンスだのハラスメントだのなんだの、部下の説教すら憚れる世情である。地雷原の中を歩かされるようなもので、まったく面倒だが時代なのだから仕方がない。
「……しばらく、会社を休もうと思います」