あらすじ
「神は死んだ」――あの日、少年は世界の理(ルール)を拒絶した。
守りたかった少女・マリヤを「新秩序(ヌーヴォー・レジーム)」の粛清によって失い、心身ともに深い傷を負った高島實。一週間の入院生活――重度の怪我による痛みと、失ったものの大きさに苛まれる彼を待っていたのは、日本の科学技術の粋を集めた「筑波研究学園都市」の、どこか無機質な病院のベッドだった。
不味い病院食をエレナに「あーん」と食べさせられる、皮肉なほど穏やかな静養。そして、丑の刻参りさながらの熱量で毎日見舞いに訪れる担任教師・グレタ。だが、その平和は薄氷の上に成り立つ仮初めに過ぎなかった。
この街には、かつてスターリンが命じ、新左翼の血によって築かれた「闇」が眠っている。
「人道的な救い」であるはずの輸血用血液に、ソ連の機密実験によって生み出された「工業化された吸血鬼」の血を混入させるという、神をも恐れぬバイオテロ計画。
科学と魔術が未分化のまま衝突し、学園都市は一夜にして、救いを求めたはずの患者たちが呻き声を上げる閉鎖空間へと変貌していく。
背後に蠢くのは、サイン(黄道十二宮)の影。 暗躍する第十二位の汚染がつくば駅の地下深層を飲み込もうとする時、ついに「親バカな担任」の仮面が剥がれ落ちる――。
「實くん。授業をちゃんと受けないとめっ! です! ――生き残るまで、放課後は終わりませんよ?」
???「君は矛盾への反証には何を用いる? ――そうだな。学校教育で培ったものを根底とするだろう。⋯⋯しかしだ。歴史修正主義の塊の産物を多用して何になる?
―――我々の言う弁証とはな『矛盾には矛盾』という論理は通用せんのだよ。何を以て矛盾とするか、それを考えられぬ者に明日は来ない。
―――同志マルクスは言った。それを論理的に説明することこそが『唯物』の真骨頂だと。
―――實くん。君の血液という矛盾を、私は『論理的』に止揚してみせる。それが、君がこの街から卒業するための唯一の講義だ」
国家、科学、イデオロギー、そして禁忌の血。 高島實は、この対岸の火事ですらなくなった地獄で、再びその「身体」を震わせる。