あらすじ
召喚事故に巻き込まれ、“善意”によって命を落とした叶丙望(かのえ のぞみ)。
自分を救おうとした青年が、結果的に自分を殺した……その事実を、彼女は事故でも運命でもなく、「選ばれなかった結果」として受け入れた。
すべての因果を知ったうえで、彼女が望んだのは復讐でも再会でもない。
ただ、静かな安らぎと、穏やかな暮らしだった。
因果の埋め合わせとして与えられた、ささやかな“贈り物”と共に、
彼女は異世界・辺境フロンティア・ノルドの少女ウィシアとして生き始める。
一方、人類の希望として魔王城を陥落させた勇者アルトリウスは、奇妙な結末に立ち尽くしていた。
魔王を討つ。その概念すら成立しない空虚な戦いの果て、魔王は幼い少女を抱えて告げる。
「……この子を、人の子として育ててくれ」
勇者アルトリウスが魔王に託された少女、ウィシア。
彼らが共に暮らす辺境は、いつしか「魔王領」と見紛うほどに、人理の外れた豊穣と静寂に包まれていく。
それは、意図的に忘れられた記憶
最初から「そう在った」かのように書き換えられた場所。
かつての「加害者」で「選ばれた」勇者となった者、「選ばれなかった」少女。
二人が交わるはずのない平穏を享受するとき、音もなく、世界の形が歪み始める。
これは、世界を救う英雄譚ではない。
「正しい結末」を失った者たちが、それでも同じ明日を選べるかを問う物語。