あらすじ
貴族の社交界では、「記憶にございません」という一言が、都合の悪い真実を消し去る免罪符として機能している。
春の夜会。可憐で繊細な令嬢ミレーヌ・ウェストは、周囲の同情と庇護を一身に集めていた。
その光景を、大広間の片隅から冷ややかに見つめるのが、エリシアである。
かつてエリシアは、ミレーヌによって婚約を壊された。
そして問い詰めようとしたエリシアの前で、ミレーヌは泣いた。
泣いた者が守られ、泣かせた者が疑われる。
その社交界の流儀を、エリシアは痛いほど思い知る。
正しさも、事実も、ここでは涙に勝てない。
夜会の最中、エリシアは決断する。
「泣けば信頼される」のなら、自分も泣けばいい、と。