あらすじ
王都の冒険者ギルドは、今日も喧騒に満ちていた。新米冒険者のコウタが登録を済ませようとしたその時、
ギルドの空気を切り裂くような、高くて甘ったるい泣き声が響き渡る。「えーんえーん! 誰もカナと組んでくれないよぉ……っ!」真っ白な翼をだらんと垂らし、床に座り込んで大粒の涙を流す少女――カナ。
彼女の周りだけ、まるで猛獣の檻のようにぽっかりと空白ができ、荒くれ者たちが避けるように通り過ぎていく。「誰も……カナのこと、嫌いなの……? ひもじくて、お砂糖も脂も買えないよぉ……っ!」そのあまりにも作為的で、でもどこか痛々しい泣き声に、コウタは思わずペンを止めた。「……あの子、どうしたんだ? あんなに泣いてるのに、誰も声かけないなんて……」受付嬢に尋ねると、彼女の顔から血の気が引いた。
首を激しく横に振り、「関わるな」「死ぬぞ」と目で訴えてくる。だが、コウタはため息をつきながら、ゆっくりとカナの元へ歩み寄った。「……おい。大丈夫か」その一言で、ギルド内の空気が凍りついた。
冒険者たちのざわめきが、一瞬で悲鳴に変わる。「あの新人、声かけやがった……!」
「死んだな……。あいつ、自分が何を『召喚』したか分かってねぇ……」周囲の戦慄をよそに、カナがゆっくり顔を上げた。
涙で濡れた瞳の奥で、黄金色の光がキラリと輝く。「……え? コウタくん……? カナに、話しかけてくれたの……? えへへ……しゅこしゅぎぃっ♡」一瞬で泣き止んだカナは、弾かれたように立ち上がり、コウタの胸元へ飛び込んだ。
背中の翼が力強く羽ばたき、ギルド内に強烈な「香り」が爆散した。コウタの鼻を突いたのは、エンジェル的暴力で野蛮な刺激臭。
思わずのけぞるコウタに、カナは首をコテリと傾げて微笑む。「ノンノン! ニンニクじゃなくて、ギャーリッキュだよぉ♡ カナたん、ギャーリッキュだいしゅきなんだぁ! コウタきゅんはぁ?」その瞬間から、コウタの日常は一変した。
誰も近寄らない「ギトギトの天使」と、彼女に心を許した「勇者」の、
ヌルヌルで、テカテカで、だいしゅき♡な旅が、今、始まろうとしていた――。