あらすじ
その団地には、13階が存在しないはずだった。
エレベーターのボタンにも、案内板にも、確かに「13」はない。
それなのに――透は“1307号室”に入居してしまった。
夜になると、天井から足音が降ってくる。
隣の部屋からは笑い声。
排水管の奥からは、誰かが這うような音。
だが住民たちは、誰も気にしない。
ただ、同じ言葉だけを繰り返す。
「静かにしてよ」
この団地には、守らなければならない“ルール”がある。
音を立てる者は嫌われ、
嫌われた者は、ゆっくりと「部屋」になっていく。
逃げようとすればするほど、階段は伸び、廊下は歪み、
団地は透の記憶を削り取っていく。
――外に出たい。
ただそれだけなのに。
静かな恐怖が、日常の隙間から侵食し、
やがて狂気が「当たり前」になる。
これは幽霊の物語ではない。
人間が“団地に馴染んでいく”物語だ。
そして最後に気づく。
この生活音は、誰のものなのか。