あらすじ
【プロローグ】
壊れる、というのは、
音を立てるものだと思っていた。
怒鳴ったり、泣き叫んだり、
取り返しのつかない言葉を吐いたり。
でも実際は、
もっと静かで、もっと日常的だった。
ちゃんと笑って、
ちゃんと家事をして、
ちゃんと母で、ちゃんと妻で。
ただ、
夜になると、胸の奥が少しだけ空く。
誰にも見せない場所が、
毎日、少しずつ削れていく。
それを埋めてくれたのが、
遠くにいる、
触れられない、
最初は名前すら知らない人だった。
幸福になれないことは、
最初から分かっていた。
それでも――
あの時間は、確かに、愛だった。
これは、
私が壊れてしまう前に、
手放した恋の話。