あらすじ
人間の百倍の寿命を持つ長命種・銀月族の料理人エルディアは、かつて「伝説の勇者パーティー」の専属料理番として、魔王討伐の旅に同行した。
戦いの最前線ではなく、後方で仲間たちの食事を作り続けた彼女。勇者たちが血を流して戦う間、エルディアは彼らの「最後の晩餐になるかもしれない一皿」を、毎晩真心を込めて作り続けた。
そして――魔王は倒され、世界に平和が訪れた。
それから千年。
不老に近い寿命を持つエルディアは、かつての仲間たちが一人、また一人と老いて逝く様を看取り続けた。勇者も、戦士も、僧侶も、魔法使いも。彼らの「最期の食事」を作り、その人生の味を記憶に刻みながら。
今や一人だけ残されたエルディアは、小さな辺境の村で食堂を営んでいる。彼女の作る料理は不思議な力を持つ――それは「誰かの記憶の味」を再現する料理。
千年前の勇者の好物。 百年前に死んだ騎士の母親が作ったスープ。 十年前に逝った妻が焼いていたパン。
訪れる客たちの望む「あの人の味」を再現しながら、エルディアは気づいていく。料理とは、記憶であり、愛であり、別れの形なのだと。そして彼女自身も、かつての仲間たちとの思い出を、一皿一皿に込めて整理していく――。
これは、長すぎる人生を生きる料理人が、「味」を通じて人々の喪失と向き合い、やがて自分自身の終わりを受け入れるまでの、千年越しの物語。