あらすじ

月見坂商店街のはずれ、古い喫茶店を間借りした「相談室つきのはな」。店先には寄付でもらった古いオルゴールがあるのに、なぜか鳴らない。 “見えなくていいもの”まで視えてしまう優は、テーブルの下に体育座りする黒いモヤを見つける。口癖は「どうせ意味ない」――優にだけ見える、やたら諦めの早い同居人だ。 雪の日、ランドセルの男の子が「転校する友だちに渡したい」と、同じ型の鳴らないオルゴールを持ち込む。優の目には箱の中に銀色の糸が絡んでいるのが視え、皇成がその指示どおりにほどいていく。か細い音が生まれ、男の子の笑顔が雪みたいにほどけたとき、モヤは光を怖がるように小さく丸まった。 翌夜、満月の屋上で寄付のオルゴールに挑む二人。中心にある黒い結び目は「約束が重いから」とモヤが呟く。優は約束を“守れる大きさ”に言い換え、皇成は無理に引かず、根元をそっと押さえる。ほどけた結び目の底から落ちてきたのは、手紙の切れ端――「あなたが見てしまう暗さは、あなたのせいではありません」。 春、桜が舞う頃。白髪の女性が現れ、オルゴールは“視える人”だった妹のものだと語る。「本当に温かい世界を見られた日にだけ鳴る」――その言葉は、笑って誤魔化してきた優の胸に刺さる。 夜、二人が「暗さを半分持つ」「決めつけず意見を聞く」と交わした小さな約束の瞬間、ついにオルゴールは初めて旋律を奏でる。足元のモヤは灰色の風みたいに軽くなり、名を変える。 雪の夜から、月の夜を越えて、花の夜へ。沈黙の箱は、誰かの明日を温める音になる。

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エブリスタ
エブリスタ2026/02/05
  • 現在の作品雪の手紙と鳴らないオルゴール 月見坂・相談室つきのはな