あらすじ
「その劇的な展開(フラグ)、現在は受理できません」
異世界に転生した元事務員のルカに与えられたのは、最強の魔法でも聖剣でもなかった。それは、世界を揺るがす宿命や悲劇を、発生前に「保留」して次元の裏側へアーカイブする――【因果の無効化】という地味な権限。
伝説の勇者が覚醒するはずだったあの日も。
聖女が非業の死を遂げるはずだったあの日も。
ルカがその肩に手を置き、「特記事項なし」と判を押すだけで、全ての事件は霧散した。
因果の糸が視えるのはルカだけだ。
周囲の人々は、彼が何を防いでいるのかを知らない。ただ「ルカがいると何も起きない」「平和すぎて退屈だ」と笑い、日常を享受する。
だが、無効化されたはずの因果は消えたわけではなかった。
ルカの記録庫(アーカイブ)には、未提出の感情、抜かれなかった剣、果たされなかった復讐が、誰にも見えないまま堆積し、臨界点を迎えようとしている。
これは、世界を救うために「何もしなかった」男が、いつか訪れる【強制有効化】の日に向けて綴る、孤独な観測ログの記録。