あらすじ
街外れの路地に、看板のない店がある。
そこでは、人々が「音」を売り買いしているという。
亡くなった人の声。
子どもの頃に聞いた雨音。
二度と戻らない、ありふれた日常の響き。
事故で聴覚を失った娘のため、主人公はその店を訪れる。
「世界で一番、美しい音をください」
そう願った彼女に、店主が差し出した答えは、あまりにも残酷なものだった。
――世界で最も美しい音とは、「二度と聞けなくなる音」だと。
愛する人のために、何を差し出せるのか。
失って初めて知る価値と、取り戻せない静寂の中で選ばれる、たった一つの音。
これは、手放すことでしか完成しなかった、ひとつの愛の物語。