あらすじ
『時計塔の裏で、琥珀色の時間を見つけました』
東京での日々に摩耗し、心をすり減らした男・久遠(くおん)のもとに届いた、差出人のない一通の手紙。導かれるように降り立った故郷の街は、十数年前の夏から、まるで時間が凍りついたかのような静寂に包まれていた。
針の止まった時計塔。その裏路地にひっそりと佇む喫茶店「琥珀」。 扉を開けた先にいたのは、あの日別れたはずの恋人・結衣(ゆい)だった。 驚くべきことに、彼女は二十歳の姿のまま、少しも歳を取っていなかった。「ここは忘れ物預かり所。腐敗しない永遠の場所」
甘い珈琲の香りと、彼女が差し出す「痛みのない世界」。鏡に映る自分の姿に戦慄したとき、久遠は究極の選択を迫られる。
美しい過去の標本として眠り続けるか、それとも血を流しながら、錆びついた歯車を回すのか――。
甘美な停滞と、残酷な再生を描く、冬の幻想譚。