あらすじ
大正の帝都。
入谷子猫は、才色兼備の令嬢として世間から「象徴」のように扱われ、文化界と社交界の中心に立つ存在だった。
だがその実、彼女の人生は常に期待と視線に縛られ、「正しい配置」を求められる息苦しいものでもあった。
そんな子猫の生活を、長年にわたり影で支えてきたのが、書生の文殊重人である。
彼は子猫を象徴としてではなく、一人の人間として見つめ、決して前に出ることなく支え続けていた。
やがて名家・櫻井匡から縁談が持ち上がる。
それは恋ではなく、「時代の象徴同士を結びつける」ための結婚話だった。
周囲は当然のように賛同し、世間では縁談が既定路線として語られ始める。
噂と期待に囲まれる中、子猫は自分の意思がどこにも存在していないことに気づく。
安野佳代子の警告、翠成都との再会、涼風ちはるの無垢な憧れを通して、
彼女は「選ばれる立場」でいることが、自分自身を失うことだと理解していく。