あらすじ
乾いた風が肌を撫で、僕の中の潤いを奪っていく。
空は嫌いだ。眩しすぎる光が、どんな汚れた人間にも等しく降り注ぐから。
景《けい》は二十一歳。
夜の街で女の子に声をかけ、笑わせ、泣かせ、救ったふりをして金に換える。それが仕事で生き方だった。抱き寄せる腕は慣れているのに、胸の奥はいつも冷えていて……。誰かの体温を知れば知るほど、自分が空っぽだと分かってしまう。
いつものようにキャッチをしていた夜、淡瀬《あわせ》と出会う。
彼氏に捨てられたばかりだという年上の女。涙は静かで、媚びることも縋ることもない。ただ夜風に晒されたまま立っていた姿に引っ張られた。特別な美人ではない。けれど、ふとした瞬間に視線を奪われる。不思議な輪郭をしていた。
景は彼女を店に連れて行かなかった。
代わりに化粧をして、服を選び、鏡の前に立たせた。指先が触れる距離、吐息が混じる近さ。その一つ一つが仕事の延長であるはずなのに、どこか違っていた。淡瀬は身を任せながらも、決して主導権を手放さない。その曖昧な態度が、景の神経をじわじわと焼いていく。
触れれば壊れそうで、離れれば失いそうで。
抱きしめているはずなのに、抱きしめられているような錯覚に陥る夜。
淡瀬に出会ってから、景の一人称はいつの間にか変わっていく。
「僕」だったはずの人間は「俺」になり、感情を持ってしまったことに気づく。
愛は甘くて、ぬるくて、逃げ場を奪う。
この官能は救いではない。
それでも景は腐りきった夜の中で、淡瀬の体温だけを探してしまう。
やがて訪れる結末が、どれほど残酷でも。